みなと交流センター「はーばりー」に突如出現した巨大サッカーボードゲーム。縦6メートル、横3.5メートルという広いピッチは、1チーム最大6名でプレーできる大きさを誇ります。
そんな巨大サッカーボードゲームの“ピッチ上”を舞台に、2025年11月1日(土)、プレ・イマバリ・パラビエンナーレのプログラムの一つとして「共に生きる社会」を有識者とともに考えるシンポジウムを開催しました。
経営者からアーティスト、行政担当者、研究者と、さまざまな立場を超えて語り合われたシンポジウムの様子をお届けします。
<登壇者・ファシリテーター>
ファシリテーター:
・戸舘正史氏(社会福祉法人来島会 アートプロジェクト監修、四国学院大学 非常勤講師)
パネリスト:
・岡田武史氏(株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長)
・森真理子氏(厚生労働省 障害者文化芸術計画推進官)
・小松田儀貞氏(秋田県立大学総合科学教育研究センター 准教授)
・土谷享氏(美術家/KOSUGE1-16)
・北條元康氏(株式会社北條工務店 代表取締役、NPO法人向島学会 代表理事)
・吉成隆氏(吉成工業株式会社 代表取締役)
・越智清仁(社会福祉法人来島会 理事長)
基調セッション「体験を懸け橋に ─ 協働する地域社会を考える」

岡田武史氏:
スポーツの世界には勝ち負けがあります。でも、アートはどう捉えるか・表現するかはその人次第。だから、人を分断しない。これからの時代、人と人とをつなぐのはアートのような、目に見えない感情の動きなんだと思います。
越智清仁:
この巨大サッカーボードゲームがあると、立場や障害の有無に関わらず、みんながつながって楽しめる場所になります。そういった場を地域に増やすことが、我々の仕事なのではないかと思っています。
森真理子氏:
アートにはより広い視野や展望を持つという意味で「“大風呂敷”を広げる」ような役割があると思います。上も下も横の垣根もなく、立場を超えて一つの場を共有し、人々を楽しませる力がありますね。
小松田儀貞氏:
ケアとは「関心を持つ」「気にする」ということなんだけど、すごく限定的に捉えられてきた。「ケアをみんなで共有する」という視点が必要だと思いますね。
基調セッションでは、岡田武史さんが取り組む「共助のコミュニティ」づくりの事例を起点に、地域に文化が根付くプロセス、どのように人々が当事者意識を持つか、多様な人との関わり合いに必要なことなど「協働する地域社会」をテーマに幅広い議論がなされました。
※基調セッションの内容はこちら
セッション①「地域コミュニティとアートの協働とは何か?」

三幡大輔:
例えば昨今のお祭りは「運営する人」と「サービスを受ける人」に分断されていることが多い。そこを混ぜて、当事者たちが自分たちのために楽しむものにしていくことがこのプロジェクトの狙いの一つでもあります。
森真理子氏:
「共生社会」や「障害者芸術」といった大きな言葉を使うことの利点はありますが、現場で使っていく際には、より伝わりやすい言葉に置き換えたり、その言葉が生まれた背景を考えたりする必要があると感じます。
小松田儀貞氏:
アートを「個性を表現する行為」と定義すると、またそれも現代においては違うという話になります。集合的な行為もアートになりえます。
セッション①では、基調セッションの話題から派生した「ケアとアート」という切り口や、「障害者アート」などの単純化した言葉で切り取られることによって失われる価値、その上でどのように発信していくかといった問いについて議論がなされました。
※セッション①の内容はこちら
セッション②「巨大サッカーボードゲームとは何か!?」

土谷享氏:
アートは口実というか、これをきっかけに本来であれば出会わなかったような人たちと結びついて一緒に取り組めるということが価値。アート自体ではなく、そこで起きることがメインディッシュです。
北條元康氏:
人がいると、そこにまた人が来る。それぞれ好きなことをやっているだけだが、そこからどんどん輪が広がり、色んなことをやり始めてまちづくりにつながっていきます。
吉成隆氏:
それぞれの専門性が異なる中で、同じ目的意識を持って完成させるということに、ものづくりとしての意義があります。そして、誰も見たことのないものを作る面白さがありますね。
セッション②では、巨大サッカーボードゲームが生まれるまでのプロセスを振り返りながら、それぞれの専門性を超えてどう協働するか、こういった取り組みの先にあるまちづくりについて話されました。
また、来島会のアート事業にも関わる音楽家の片岡祐介氏からは「自分は今、ケアを受ける練習をしています。ケアを受けることにも習熟が必要だし、音楽の現場でも自分で全部やらずに、やってもらうことでの面白さもありますよね」と、本日の各ディスカッションを横断してのコメントもありました。
※セッション②の内容は後日公開予定です。
来春の本開催に向けて(理事長あいさつ)

シンポジウムの最後には、来島会・理事長の越智清仁より、ご参加・ご協力いただいた皆様への感謝とともに、これから始まる「イマバリ・パラビエンナーレ」の構想と意気込みをお伝えしました。
本日のシンポジウムは基調セッションにはじまり、「地域コミュニティとアートの協働」、そしてこの「巨大サッカーボードゲーム」が持つ意味について。三つのセッションを通して、立場や分野の垣根を越え、人々が「体験」を共有することから生まれる対話や協働こそが、これからの地域社会を豊かにしていく鍵であると、改めて確信しました。
ご参加いただいた皆様の真剣な眼差しからも、その熱意が伝わりました。改めて、ご登壇いただいた皆様、そしてご参加くださった皆様に心より感謝申し上げます。
さて、「プレ・イマバリ・パラビエンナーレ」は本日で終わりではありません。
このプレイベントは、2026年に開催する「第1回イマバリ・パラビエンナーレ」に向けた、大切なキックオフです。さらには第2回開催の2028年と大きな目標を見据えています。
私たちは、アートの力を借りて、障害の有無などの違いで隔てられた社会の壁を溶かし、誰もが自分らしい挑戦をできる地域を、皆様とともにつくっていきたいです。
その具体的なプロジェクトの一つとして、すでに来年に向けて動き出しているものがあります。美術家の磯崎道佳さんと、私たちの運営する就労継続支援 B 型事業所「麦の穂」が協働する『カンパーニュプロジェクト』です。
これは、事業所の農園で摘果され、これまで廃棄されていたシャインマスカットや甘平から天然酵母をおこし、地域でフィールドワークを通して、ライ麦や塩を再発見し、自分たちでカンパーニュ(田舎パン)を焼こうという試みです。
このプロジェクトの面白いところは、パンがうまく焼けることだけが目的ではない、という点です。時には失敗したり、不格好なパンが焼けたりもするでしょう。その「できたり、できなかったり」というプロセスや結果を、みんなで受け入れ、面白がり、楽しむ。そうした文化を、この今治の地に少しずつ育んでいくことこそが、このプロジェクトの本当の目的です。
本日、私たちがシンポジウムで語り合った「協働」の姿が、このようなアートプロジェクトを通して、少しずつ地域の中に、具体的な形で生まれていく。私たちはそう信じています。
本日ここで生まれた出会いや対話の輪を、ぜひ今後につなげていきたいと思います。皆様、どうぞこれからも「イマバリ・パラビエンナーレ」の活動にご注目いただき、そして、ぜひご参加ください。
共に、この今治という街を、誰もが、お互いの存在を感じながら生きていける場所へと育てていこうではありませんか。
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この1日を通して多くの方と共有した目指すべき「共生社会」の実現に向けて、来島会の挑戦はまだ始まったばかりです。
※今回の記事では、行政機関の標準表記である「障害」に統一しています
