「やってみようかな」が育つ瞬間を見守る楽しさ
私が普段関わっている「なかよし学童くらぶ(以降「なかよし」と言う)」では、日替わりの活動の一つとして「アートの時間」を設けています。ご利用者様は、必ずしも毎日「なかよし」に通っているわけではありませんが、毎月の利用日のうち、必ず1度はこの時間に参加できるようにしています。
このアートの時間では、最初にテーマを伝えたあとは、子どもたちが思い思いの発想で自由に手を動かし、作品づくりに取り組みます。「アート」といっても、美しいものや上手なものを作ること自体が目的ではありません。例えばイライラしたときにはぐしゃぐしゃにしてもいいし、例えば顔を作るときに目が外側についていてもいい。その時の気持ちや、その人ならではの見え方や表現を大切にしたいと思っています。
もちろん「自由に表現して」って言っても、最初は苦手意識のある子もいます。今では一生けん命制作に取り組んでいる4年生のAさんも、1年生のときには「やりたくない!」と部屋を飛び出したこともありました。でも少しずつ経験を重ねるうちに、他の子の制作に興味を持つようになり、「得意じゃないけどやってみようかな」と思えるようにもなりました。その結果、制作に向かう時間も次第に長くなっています。
制作のテーマは、私たち職員がある程度設定しますが、その中でどれだけ自由に表現できるかを大切にしています。見本を見せることもありますが、あくまで参考。「こうでなければいけない」という押し付けはせず、子どもたちが自分の世界を自由に表現できることを一番大切にしています。

11月の「サーカスパレード」で使用した動物の被り物も、アートの時間に子どもたちそれぞれが好きな動物を選び、制作したものです。長時間の制作が難しい子も多いため、1回あたりの活動時間はだいたい30分程度。それでも何日かにわたって形や色にこだわりながら、丁寧に作り進めていました。中には1時間でも没頭して取り組む子もいて、それぞれの個性が表れた作品になりました。
表現を通して、その人の知らない一面にばったり出会う
「なかよし」では、そんなアートの時間に向き合ったり、絵日記を描いたり、一人ひとりにあわせたワークに取り組んだりしながら、ご利用者様と日々の時間を重ねています。こうした関わりの中で、「これは世に出したい」と思えるユニークな表現が自然と見えてきます。
例えば、小学4年生の葵さんはエアコンが大好きで、アート活動の時間を超えてもずっとエアコンをテーマに作品を作り続けてきました。
「なかよし」に通い始めた当初から、エアコンへの並々ならぬ熱意を持っていた葵さんです。最初は「描いて」と言って紙を渡すことが多かった彼も、「描いてみてよ」というこちらからの声かけをきっかけに徐々に自分で描くようになり、色や形、描いた絵の見え方など、次第に作品の細部にまでこだわりを見せるようになりました。

エアコンのメーカーを記憶し、街を歩けば室外機を気にして「どんなエアコンか見てみたい」というその姿からは、彼の世界への深い興味や集中力が伝わってきます。そんな葵さんの個性や表現を見て、私はもっと多くの人に見てほしいと思いました。それが「だんだんBASEギャラリー展」を企画した理由です。
個展を経験した葵さんの変化を見ると、表現の力をより実感します。展示や取材を通して多くの人に自分の表現を見てもらう経験を重ねた葵さん。その経験が、自分のエアコンへの熱量を、より積極的に他の人に伝えるきっかけになっています。エアコンや、葵さんの大好きなエアコンがある「つくし食堂」の話で誰かと盛り上がる姿を見ると、子どもたちの小さかった世界が周囲に伝わる瞬間を感じられて、こちらも嬉しくなります。そんな様子を見て周りの子たちも「葵さんってすごい」「かっこいい」と自然に憧れる。周囲の素直な関心や評価が自信につながるんだなと実感します。
周囲の方にも新しい気づきがあるようで、例えば普段はあまり関心を示さない親御さんが、展示や子どもの表現に夢中になったり、言葉をかけたりする姿は、職員にとっても嬉しい驚きです。もしかすると家での会話だけでは気がつかないかもしれないけど、作品や表現を通してこそ、その人の可能性や得意な部分を発見できる時間になる。そうして共有できる体験の大切さを改めて感じていますし、こうして人のいろんな側面があることに気づくきっかけになるのが、アートや表現の力なんだなと思います。

学校の授業では時に上手下手で評価されたり、同じものを作ることが求められたりもします。そうしているうちに、「自分にはできない」と思うようになってしまう子もいるのかもしれません。
でもアートの取り組みを通じて気づいたのは、一人ひとりの感性の違いこそが面白さであるということです。「だんだんBASEギャラリー展」では、そんな“違い”の魅力を来場者自身に体感してほしいと思っています。
表現に現れる内面の豊かさ
次回企画している「コミカルイラスト展」では、「なかよし」に通う坂本陸さんの作品に注目しました。彼の作品には、どこか“おもしろさ”があって、日常の中の小さな出来事をユーモアたっぷりに切り取るセンスがあります。日々、絵日記を書いてもらっているんですけど、避難訓練をした日、ソーシャルサーカスをした日、制作をした日。どの日も、彼の目線と表現で日常が切り取られています。
カラオケをした日は「クリスマスソングをうたいました、イケボでがんばりました」「まだ秋なんだけど」ってコメントを添えていて、その発想や言葉の選び方がなんとも絶妙。作品の制作過程も一つひとつ絵で示してくれているんですけど、その手順すべてに自分なりの物語が宿っています。


そんな陸さんは、絵日記はお気に入りの色鉛筆でないと描かないんです。いつも大きなリュックに入れて持ち歩いていて、描く前にはぐちゃぐちゃになった色鉛筆を必ず並べ直してからスタート。描いた作品は“本物”として手放したくないけれど、「コピーならいいよ」と譲ってくれるんです。そこにも、彼なりのこだわりと世界の守り方が感じられます。
アートという言葉で括ると広いですが、こうした表現一つひとつの中に、その人の内側が自然に表れているんですよね。

「違い」に出会う、だんだんBASEギャラリー展へようこそ
だんだんBASEギャラリー展は、それぞれの「違い」がそのまま表現となって現れ、その表現を通してその人の新しい一面と出会える場所です。自分の世界を自由に描き、周囲から「いいね」と認めてもらえる場所でもあります。
表現することの楽しさや、一人ひとりの個性の価値を実感できる。これからも、それぞれの“自分らしさ”が自然にあふれ出すようなギャラリー展を、大切に育てていきたいと思っています。
次回は、2025年12月13日~22日まで、【ギャラリー展】「コミカルイラスト展~THE WORLD OF RIKU SAKAMOTO」を開催します。ぜひ足を運んでみてくださいね。
話し手:重松理恵さん
なかよし学童くらぶ 管理者、介護福祉士。子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりに日々、努めている。
聞いた人:小林友紀(合同会社企画百貨)
アート、表現、暮らし、食、教育などに興味関心を広げながら、今治を拠点に執筆や広報の仕事をしています。


