今治で、障がいのある人もない人も共に暮らす地域づくりに長年取り組んできた私たち来島会。その歩みの延長線上にあるのが、「イマバリ・パラビエンナーレ」プロジェクトです。
アートを通じて“共に生きる”ことを体感する――その新たな挑戦の背景には、これまで地域で積み重ねてきたさまざまな実践があります。
制度ではなく、関係からはじまる共生
昨年度、私たちは5回にわたる「障がいのある方の親なきあとの豊かな地域生活セミナー」を通して、地域における障がいのある方の生活課題と改めて向き合いました。
今、日本では在宅で生活する65歳未満の知的障がいのある方の92%が親御さんと同居しています。食事、掃除、洗濯などの家事から、買い物や金銭管理、服薬管理まで、生活に関わるほぼすべてを親が担っているケースが多く、本人は自分で意思を伝えたり生活能力を育む機会は限られています。
しかし、親はいつまでもそばにいられるわけではありません。もし突然親が亡くなってしまったら――。何の準備もないまま、障がいのある方が一人で生きていかなければならない状況が現実に起こり得ます。
その不安から、多くの親御さんは入所施設への入所を望みます。けれど、施設には待機者が多く、集団生活ゆえに自由が制限される面もあります。グループホームも選択肢のひとつですが、運営方針やサービス内容はさまざまで、やはり自由度には限りがあります。
一方で、一人暮らしを選ぶ場合は、必要な支援を探して契約するための知識や手間が求められ、簡単な道のりではありません。セミナーでは、そうした現状や不安を共有しながら、「親なきあと」も安心して地域で暮らせる方法を、参加者全員で学び、考えました。

特に印象に残ったのは、セミナーを経てもなお、親御さんたちが抱える強い不安の声です。高齢の親御さんは「一日でも早く入所施設に預けなければ」という焦りを抱え、若い親御さんは「失敗させたくない」「守ってあげたい」と先回りの支援を望む。どちらの立場にも共通するのは、愛情と責任感、そして不安と葛藤です。
来島会は、施設を運営する立場として多くの経験を積んできました。たしかに、施設での集団生活は安心をもたらす選択のひとつです。けれど果たしてそれが、本当に当事者にとって「豊かな人生」を実感できる選択だとは限りません。
始めから「地域社会の中でともに生きる」という選択肢を奪っていないか、支援者が一方的に選択肢を狭めていないか。
障がいがあるからといって、人生の選択肢が狭まるのは豊かな暮らしとは言えません。挑戦と経験の積み重ねこそが、その人らしい豊かさにつながるーー。だからこそ、私たち来島会は、親御さんの不安に寄り添いながらも、障がいのある方の地域移行を少しずつ進めていきたいと考えています。
もちろん、サポートなしに地域での暮らしを実現することはできません。
そのための「チャレンジできる環境」を整えることこそ、地域で障がいのある方の暮らしを支えてきた来島会の次なる使命です。
そのためには当事者本人がいろんな選択肢を持てるよう、日常の中でさまざまな体験や選択の機会を持つことが何より大切です。そして同時に、地域の側が障がいのある人を“特別な存在”ではなく、“一緒に暮らす仲間”として受け入れる――そんな関係性が根づく社会も欠かせません。

アートの持つ力
来島会ではこれまで、「アート」を通じて、障がいのある方一人ひとりの内にある「表現する力」に寄り添ってきました。アートには、言葉を超えて思いや感情を伝える力があります。うまく話せなくても、筆の動きや色づかい、素材の選び方などにその人の世界があらわれます。
私たちは、そうした表現を「特別な才能」として見るのではなく、「その人らしさ」として大切にしています。描く、つくる、感じる――その過程そのものが、自己理解や他者とのつながりを育む時間になります。
また、アートは“支援する側”と“される側”の関係をも超えていきます。
一緒に作品づくりをするなかで、自然と笑い合い、共に悩み、発見し合う。そこには立場を超えたフラットな関係が生まれます。こうした体験こそが、来島会が目指す「関係からはじまる共生」の原点でもあります。
くるしまアール・ブリュット展(2017年~)

2017年から毎年開催している「くるしまアール・ブリュット展」は、ご利用者様が制作した絵画や造形作品を地域に発表する場です。
作品を通して、障がいのある人の感性や世界の見方に触れることで、訪れた人の中に“違い”を超えた共感や驚きが生まれます。
この展覧会は、アートが「福祉」ではなく「まちの文化」として広がっていく第一歩となりました。
FC今治との協働(2023年~)

2023年4月には、FC今治の本拠地「アシックス里山スタジアム」敷地内に複合福祉施設「コミュニティービレッジきとなる」を開設。
スタジアムという開かれた場で、ご利用者様と地域住民が時にともに活動し、「顔見知り」の関係を紡ぎながら多様な体験を共有しています。
そこには、サッカーを応援する人も、働く人も、暮らす人も、同じ時間を分かち合う小さな“まち”の風景が広がっています。
「アートの保健室」プロジェクト(2024年)

2024年度には、職員やご利用者様が抱える課題をアーティストとともに表現活動をとおして解決していく「アートの保健室」プロジェクトを始動。誰もが気軽に相談できる場所のように、アートに触れたり参加したりできるきっかけをつくりたいという思いから、「保健室」という名前を付けました。
例えば「麦の穂」では、摘果作業で間引かれた未熟なぶどうを使い、北海道在住のアーティスト・磯崎道佳さんの協力のもと、未熟ぶどうを天然酵母に発酵させ、カンパーニュを焼くプロジェクトに挑戦。日々の仕事のなかで出る素材を“新しい表現の種”として活かし、みんなで試食を楽しみながら、自分の仕事の価値を再発見する喜びを共有しました。

同時に、事業所間で資材やノウハウを持ち寄る拠点「おすそわけHUB(ハブ)」を設け、誰もが制作活動をとおして、相互の交流ができる環境を整えました。
だんだんBASEギャラリー展(2025年~)

2025年春には、市内にアートを中心とした地域交流の拠点「だんだんBASEギャラリー」をオープン。個展やワークショップの開催を通じて、障害のある方々の表現活動を広く紹介しています。ここでは、アートが“出会い”の媒介となり、作品を鑑賞する人と作り手が自然に対話を交わし、地域に小さなつながりの輪を生み出しています。
秋からは、ギャラリー展を本格的に開催中。まずは来島会のご利用者様のアートに焦点をあて、個展を展開していますが、今後は地域住民の作品も展示し、より開かれた場所として成長させていく予定です。
アートがつなぐ、“共に生きる”という実感
こうした日々の積み重ねの先に構想したのが、アートプロジェクト「イマバリ・パラビエンナーレ」です。
イマバリ・パラビエンナーレは、単なるアートイベントではありません。
障がいのある方が地域で主体的に暮らすための、実践の場であり、そしてそのプロセスを通じて地域そのものが変わっていくための“共創のフィールド”でもあります。
障がいのある方も、ない方も、立場を越えて共に参加し、作品制作やワークショップなどを通じて、地域の中で“出会い”や“学び”を実感できる場をつくっていきます。
そうして障がいのある人自身が多くの人と出会い、表現する喜びを味わいながら、人生の選択肢を広げていく――。その過程で育まれるのは、作品という「かたち」だけではなく、人と人とがつながる「関係の輪」です。


今治から、共生社会の未来を描く
「違うこと」「知らないこと」に出会うのは、少し怖いことかもしれません。
けれど、一緒に何かを創ることで、確かに心がふれあう瞬間が生まれる。
アートを通して、人が人と出会い、理解し合い、支え合う――。
その一つひとつの出会いと実感の中に、「共生」という言葉の本当の意味を実感できる未来を、今治のまちから育てていきたいと考えています。
少し難しいことも話しましたが、まずはどうぞ、力を抜いてアートを楽しんでください。気づけばきっと、世界が少しやさしく見えるはずです。

書いた人:三幡大輔(来島会・イマバリ・パラビエンナーレプロジェクト責任者)
