鼎談:多機能型事業所ジョブサポートセンターここすた × 生活介護事業所ぬか つくるとこ
生活のしづらさに寄り添うこと。できることを増やすこと。働く力を育てること。そのどれもが、福祉サービスにおける支援の大切な役割です。
けれど、イマバリ・パラビエンナーレの活動の中で、その“支援”を少し違う角度から見つめ直す時間が生まれていました。
活動の主体は、来島会が今治市内で運営する多機能型事業所「ジョブサポートセンターここすた(以下、ここすた)」と、岡山県にある生活介護事業所「ぬか つくるとこ(以下、ぬか)」。運営元も、拠点も、日頃の支援内容も異なる二つの事業所が、来年2月の会期に向けて、一緒に地域で色々な人が交ざりあう仕組みをつくるプロジェクトに取り組んでいます。
ここすたとぬかの交流のなかで、「ビールを飲むのが好き」というここすたのスタッフの趣味から、「カンパイをするだけ」という取り組みが生まれました。カンパイには必ず音頭があります。参加の皆さんが、それぞれに自分の身におこる嬉しいできごとを音頭として語り、みんなで乾杯しあいます。その輪はここすたとぬかに限らず、オンライン、対面でどんどんと広がっています。
行っている取り組みは単純ですが、その時間を重ねるなかで生まれてきたのは、日常の視点や関わり方が少しずつ変化していく兆しでした。5月から毎月開催を継続している「カンパイミーティング」。3回目となった7月。今回はじめて、音頭のかわりに劇を行いました。終了後、両事業所のスタッフの皆さんに話を聞くと、「楽しい」「面白い」「余白」という言葉が何度も飛び交いました。
その対話から見えてきたものを、お届けします。
話を聞いた人:
水本かおりさん(ジョブサポートセンター ここすた 管理者)
中野厚志さん(株式会社ぬか 代表)
飯野あやさん(生活介護事業所ぬか つくるとこ スタッフ)
川上靖人さん(就労継続支援B型事業所ひょん スタッフ)
「その人自身を真ん中に置く」
―今日のワークショップ、とても大きな笑い声が響いていましたね。初めて実際に顔を合わせたプログラム、どんなことを感じましたか?
水本さん(ここすた):
いやぁ、今日は本当にありがとうございました。事前の打ち合わせの段階では「『みんなで演劇をして、乾杯しよう』って聞いて、一体どんな感じになるんだろう」って未知数だったんですけれど、思った以上に盛り上がって、本当に楽しかったです。
今日の様子を見ていて一番感じたのは、「ぬか」の皆さんも、「ここすた」のご利用者さんも職員も、みんなが心の底から楽しそうに過ごしていたことでした。
私たち「ここすた」は、普段「就労支援」という枠組みの中で活動している事業所です。だからどうしても職員側は「何か成長につながる時間にしなければ」「きちんと訓練を提供しなければ」と考えがちです。
もちろん、それは大切なことだと今でも思っているのですが…
ただ、今日の時間を見ていると、普段の訓練の場ではなかなか見られない表情がたくさんありました。利用者さんも職員も、ただ参加するのではなく、その場にいること自体を楽しんでいる。そこに、私たち自身が大きな刺激をもらいました。

中野(ぬか):
そう言っていただけると嬉しいです。でも、僕らの場合は、そもそもの事業の性質の違いも大きいと思います。「ぬか」は重度の障がいがある方が多く通う生活介護事業所で、言ってしまえば「仕事」をしなくてもいい環境。だからこそ余計に、その人がどう過ごしたいのか、その人自身の時間をどう豊かにできるのかを考えることが大事です。
僕自身、福祉の仕事を始めて28年ほどになりますが、長く現場にいるほど「福祉とはこうあるべき」という考えに引っ張られることもあります。
「できないことをできるようにする」「困りごとを減らす」
もちろん、それも大切です。でも、それだけでは見えなくなるものもあると思うんです。
本人がやりたくないことを無理に引き出すよりも、その人がその人らしくいられる時間をどう作るか。「やってもいいし、やらなくてもいい」、その中でその人自身が面白がれる瞬間を一緒につくっていく。僕らが大切にしているのは、そこなんだと思います。
水本:
そう思われるようになったのには、何かきっかけがあったんですか?
中野:
うーん、どうでしょう。長く現場にいる中で、「この人たちの面白さには敵わないな」と感じる経験をたくさんしてきたからかもしれません。
僕ら、日頃からよく「アート活動をしている」と思われるんですが、実は僕自身、アートをやっているという意識は全くないんです。
どちらかといえば、「その人」のストーリーや面白さを捉えて、それをワークショップや表現として形にしていく。その結果として、周囲から「アート」に見えているだけで、何も素晴らしい作品を作り上げたいわけではない。
根っこにあるのは、ずっと変わらず「その人を真ん中に置く」ということ。それをスタッフみんなで続けてきたなかで、自然と培われてきた感覚なのかもしれません。
面白がるから、その人らしさが見えてくる
ー今日の時間を見ていて印象的だったのが、利用者さんだけでなく、スタッフの皆さん自身がとても楽しんでいたことです。
中野(ぬか):
まさに僕らが大切にしていることの一つが、「スタッフ自身がどう楽しめるか」なんです。
今の福祉の現場って、やらなければいけないことがどんどん増えています。記録、制度への対応、安全管理……。もちろん、どれも必要なことですが、そればかりに追われてしまうと、人と人との間にある「余白」がなくなってしまう。余白がなくなると、面白いことって生まれにくくなると思うんです。
だからこそ、僕らは意識してその余白をどう守り、どう楽しむかをすごく大事にしています。
例えば、ぬかびとさん(注:「ぬか」のご利用者様の呼称)が突然思いもよらない行動をしたとします。普通なら「どう対応するか」「どう修正するか」という視点になるかもしれません。
でも僕らは、まず「今の面白かったね」と受け止める。そのできごとを、その人らしさが表れた瞬間として見る。そういう小さな発見を、スタッフ同士で共有しています。多い日は1日で300〜400件もLINEにそういうやり取りが溜まります(笑)。
業務記録って、どうしても「できなかったこと」や「注意すること」が中心になりがちですが、うちは面白かったことや、その人らしさが表れたエピソードを残すことが多いですね。そういう発見を、みんなで持ち寄る。
水本:
私たちの事業所では、どうしても「明日の訓練をどうするか」というような業務的な会話が多くなりがちです。もちろん、それも必要なことです。でも、「今日こんなことがあって面白かったね」と話せる時間も、もっと大切にしていいんだなと感じました。
中野:
面白いことやその人らしさに気づく「発見者」の存在ってすごく大事なんですよね。そのスキルの原動力こそが「楽しい」という感情だと思ってるんです。
うちではそのスキルを「なんセンス」と呼んでいます。「なんでそんなんするん?」という驚きと、「でも、それ面白いな」という感覚。その両方を持っている人ですね(笑)。そんな、なんセンスの持ち主が「ぬか」にはいっぱいいます(笑)
その発見が増えていくほど、その人との関係性も変わっていく。面白がることはその人を知るための入り口だと思うんです。

“くすぐって”、試し続ける
―今回の対面の交流の中で、「ぬか」の皆さんの「なんセンス」がビビッと来る瞬間はありましたか?
飯野(ぬか):
正直、オンラインでは画面の向こうの「ここすた」の皆さんが静かすぎて、「あれ、これ静止画かな?」と思うくらい動きがなかったんです(笑)。
でも、今日実際に会ってみると、画面越しとは全然違いました!一人ひとりに全然違う雰囲気や個性があって。控えめな方もいれば、場を盛り上げる方もいる。ワークショップの中でも、それぞれの個性が自然に出ていました。
「この人とは、こんな話をしたら楽しそうだな」
「こういう場所に行ったら、もっと違う表情が見られるかもしれないな」
そんな想像がどんどん膨らんで、私も楽しませてもらいました。
水本(ここすた):
あはは、確かに、オンラインではみんな緊張していましたね(笑)。
でも今回は自分たちで台本をつくりながら、どう楽しむかを考えて参加していたのが、前回との大きな違いだったと思います。ただ用意されたものに受け身で参加するのではなく、みんなで場をつくっていく感覚がありました。
飯野(ぬか):
スタッフの皆さんも、最初は「盛り上がるのかな?」と少し心配していたのですが、皆さんそれぞれこの場を心から楽しもうとされているのが伝わってきました。水本さんもくるしマグロ(ぬかよりここすたへプレゼントされた大きな手作りマグロ)を釣り上げていましたし(笑)。
水本(ここすた):
楽しくやらせていただきました(笑)
私自身、「ぬか」の皆さんと関わり始めてびっくりの連続で。でもある時、スタッフから「水本さん、『ぬか』さんの影響受けてません?」って笑われながら指摘されたことがあって(笑)。自分では無意識だったのですが、知らず知らずのうちに私自身の発言や視点も、影響を受けて変わってきているのかもしれません。

川上(ひょん):
僕も、「ぬか」に入った当初は戸惑いました。前に勤めていた福祉事業所との違いに驚きましたし、最初は「なんだかスタッフばかりが前に出て盛り上がってるな」と思ったくらい。「自分はまだ”浅漬け”状態です」なんて言っていた時期が、長らくありました(笑)。
でも現場にいるうちに腑に落ちてきたんです。
「こんなことをしたら、どんな反応をするんだろう?」って、その人の中にある、まだ見えていない部分を“くすぐって”みる。そうすると、真面目な部分だけじゃない、その人の余白みたいなところが見えたりする。スタッフ側の「仕掛け」や「働きかけ」が、ぬかびとさんの隠れた一面を引き出したり、新しい可能性を広げたりすることもあるなって。
中野(ぬか):
生活のしづらさへの支援や困りごとへの対応は、もちろん欠かせません。でも、それだけに目を向けていると、その人の魅力や可能性を見落としてしまうこともある。
だからこそ、「この人は何を面白いと思うんだろう」「どんな関わりなら、その人らしい表情が見られるだろう」と考え続けるんです。
そうやって一人ひとりを知っていく積み重ねが、結果として、その人に合った関わり方につながっていく。やっぱり、その人自身を知らないと見えてこないことが、たくさんあるんですよね。
就労支援の現場では、「与えられた仕事をいかに効率よく進めてもらうか」が、どうしても優先されがちです。もちろん、それはとても大切なことです。でも、それだけを追い求めていると、スタッフも利用者さんも息が詰まってしまう。
だから「ぬか」では、あえて”無駄”に見える仕事をつくることがあります。
例えば、本当は案内役なんて必要ない場面でも、「この人にお願いしてみようか」と役割をつくってみる。効率だけを考えれば、しなくてもいいことかもしれません。でも、「この人がやったら面白そう」「この人らしさが出るかもしれない」という期待を込めて、あえて役割を生み出すんです。
そうすると、思いがけない振る舞いや表情が見えてくることがあります。
水本(ここすた):
以前、「ぬか」を訪問させてもらった時、ぬかびとさん達が自然に歌を歌って迎えてくださって、その場の空気を思いきり楽しんでいる様子に圧倒されたことを思い出します。そんな空気の中に、利用者さんが一番輝く形や、その人らしさをどう引き出すかを、すごく丁寧に考えられているんだなと感じたんです。
もちろん、仕事や訓練として「きちんとやらなければならない部分」はあります。でも、それだけではなく、その方の魅力や良さを、日々の関わりの中でどう見つけ、どう引き出していくのか。何か特別なことをしようと構えるのではなく、私たちも普段の何気ないやり取りの中にある、その人らしさや魅力に気づける視点をもっと大切にしていきたいなと感じました。
まだ見ぬ広がりを、一緒に楽しむ
―今回の共同プロジェクトを通じて、今後両事業所にどのような変化や芽生えが生まれていくことを期待されていますか?
中野(ぬか):
正直に言うと、これからどうなっていくのかは、僕らにもまだ分かりません。
今は「乾杯」が面白いからやっている。でも、この先まったく違う方向に広がっていく可能性もあると思っています。その予測できなさも含めて面白いと思うんです。
最初からゴールを決めて、そこに向かって進むだけでは見えてこないものがある。一緒にやりながら、「次はこんなことができるかもしれないね」と、偶然生まれるものを大切にしていきたいです。
今回のように、事業所の枠を越えて長く一緒に取り組むことは、「ぬか」にとっても初めての経験でした。利用者さん同士だけではなく、スタッフ同士も新しい刺激を受けています。普段同じ場所で働いているだけでは気づけなかった視点を、外との関わりからもらえていると感じてます。
水本(ここすた):
私も、目標を細かく設定しすぎてしまうと、どうしても「真面目に進めなきゃ」とまた苦しくなってしまいそうで(笑)。
それよりも、来年の春くらいに「あれ?1年前と比べたら、なんだか事業所の空気が柔らかく変わったよね」と、スタッフ同士で笑顔で話せているのが理想ですね。
「ぬか」の皆さんが大切にされている「余白を楽しむ感覚」を、日々の訓練やコミュニケーションの中に少しずつ溶け込ませていきたい。職員も利用者さんも、「訓練自体は大変だけど、ここに来るのが楽しいな」と、今以上に思える場所にしていきたいです。
そしてこのプロジェクトを通して事業所の壁を越えるだけでなく、地域の人たちも巻き込みながら「面白いこと」をどんどん共有していけたらと思っています。

